この記事の結論:複数院でスタッフを共有するなら、間取りの形ではなく「部屋の並び順」「物の置き場所と高さ」「器具が流れる向き」「端末の位置」というオペレーション動線をそろえることが大切です。どの院に行っても同じ場所に同じ物があれば、応援に入ったスタッフも初日から迷わずに動けます。物件の形が違っても、順番と高さのルールは共通にできます。
執筆・監修:櫨本 健一(ハゼモト建設 代表取締役/一級建築士)
なぜ複数院で「オペレーション動線の統一」が必要なのか
理由は、院ごとに配置が違うと、スタッフが院を移るたびに物を探す時間と、確認のための声かけが増えるからです。分院が増えると、休みの補充や繁忙日の応援で、スタッフが別の院に入る機会が多くなります。そのたびに「滅菌済みの器具はどこ」「この院の端末はどれ」と迷っていては、診療の流れが止まりやすくなります。
動線(人や物が動く道すじ)をそろえておけば、院が違っても体が覚えた動きのまま働けます。新しいスタッフの教育も、一つの院で覚えたことをほかの院でもそのまま使えるため、進めやすくなります。内装・什器の仕様をそろえる考え方は別のコラム「分院展開を速くする内装・什器の標準仕様化」もあわせてご覧ください。
統一する5つの項目
統一したいのは、部屋の並び順、物の置き場所と収納の高さ、器具の流れの向き、サインと色分け、LAN・電子カルテ端末の位置の5つです。
| 項目 | 院をまたいでそろえること | 物件に合わせて調整してよいこと |
|---|---|---|
| 部屋の並び順 | 受付→診療室→消毒室の順番、スタッフ通路の有無 | 廊下の長さ、部屋の形 |
| 物の置き場所・高さ | 棚の段ごとの中身、引き出しの順番、取付け高さ | 棚の幅、列の数 |
| 器具の流れの向き | 使用済み→洗浄→滅菌→保管の一方向 | 消毒室の広さ、シンクの数 |
| サイン・色分け | 部屋の呼び名、色の意味、表示の位置 | 看板の大きさ、取付け方法 |
| LAN・端末の位置 | 受付・診療室での端末の置き場所、配線の出口の高さ | 配線のルート、機器の台数 |
受付〜診療室〜消毒室の並び順をそろえる
並び順は、「受付の裏にスタッフ通路、その先に診療室、診療室の裏に消毒室」というように、部屋のつながる順番で決めます。部屋の大きさや形は物件によって変わりますが、つながる順番は多くの物件で守れます。
特に、患者さんの通り道とスタッフの通り道を分けるかどうかは、院ごとに変えないほうがよい点です。片方の院では裏の通路から消毒室へ行けるのに、もう一方では待合を横切る、という違いがあると、スタッフの動きも患者さんへの気配りも変わってしまいます。
物の置き場所と収納の高さをそろえる
置き場所は「どの棚の、何段目に、何を入れるか」まで決めておくと、院が違っても手が自然に伸びます。棚の幅や列の数は物件の壁の長さで変わっても、段の高さと中身の順番が同じであれば迷いません。
よく使う物は腰から目の高さの間、重い物は下の段、使う頻度の低い物は上の段という基本も共通にします。受付カウンターの高さは110cm前後が目安で、カウンター内側の引き出しや書類の置き場所も同じ並びにしておくと、受付の応援に入ったスタッフも慌てずに対応できます。当社ではボードを張る前に、器具の高さを先生に現場で確かめていただき、決めた高さを次の院にも引き継ぎます。
器具の流れの向きをそろえる
器具の流れは、「使用済み→洗浄→滅菌→保管→診療室へ」の一方向にし、その向きをどの院でも同じにします。たとえば、消毒室に入って左に使用済みの置き場、正面に洗浄のシンク、右に滅菌器と保管棚、という並びを共通にすると、使用済みと滅菌済みが交わりにくくなります。
消毒室の広さによっては一直線に並べられないこともありますが、その場合もL字やU字の形で向きを保ちます。シンクや滅菌器には給排水と電源が必要なため、テナントでは排水の位置と床の高さを着工前に確かめます。
サインと色分けで迷わない院に
サインは、部屋の呼び名と色の意味を全院で共通にすることが基本です。「消毒室」「器材室」「スタッフ室」などの名前を院ごとに変えず、スタッフ向けの表示は同じ高さ・同じ位置に付けます。
色分けは、たとえば清潔な物の棚と使用済みの物の置き場を色で分けるなど、意味を決めて使います。色の意味が院ごとに違うと、かえって混乱を招きます。患者さん向けの案内表示もロゴや書体をそろえると、どの院でも同じクリニックだと伝わります。
LAN・電子カルテ端末の位置をそろえる
端末の位置は、受付・診療室・消毒室のそれぞれで「どこに置き、配線がどこから出るか」を共通にします。電子カルテやレセコン、オンライン資格確認、予約システムの端末が同じ位置にあれば、院を移ったスタッフもすぐに操作に入れます。
当社では着工前に、電気・水道業者、電子カルテ・レセコンのIT業者、医療機器メーカーが現場に集まる「設備の情報共有会」を開き、LANの口や配管の位置を確かめます。予備のLANの口と空配管(あとから配線を通すための管)も用意しておくと、院ごとに機器が増えても位置のルールを崩さずに済みます。
事例:よつば歯科クリニック 門司院・ゆめモール下関院
よつば歯科クリニックでは、門司院(北九州市門司区)とゆめモール下関院(山口県下関市)のどちらでも、患者さんとスタッフの通り道を分けました。下関院は約200㎡の木造平屋で、患者さんはガラス沿いの明るい廊下を通り、スタッフは診療室裏の廊下で消毒室や器具置き場へ向かいます。着工前には電気・水道・IT業者・医療機器メーカーで配管とLANの位置を確認しました。
よくある質問
Q. 物件の形が違っても動線はそろえられますか?
A. 部屋の並び順や器具の流れの向き、収納の高さなどは、物件の形が違ってもそろえられることが多いです。廊下の長さや部屋の大きさは物件に合わせ、つながる順番と高さのルールを共通にします。
Q. 既存の院の動線がばらばらな場合はどうすればよいですか?
A. まず、いちばん使いやすい院の配置を基準として決め、ほかの院は改装の機会に棚の中身や表示から合わせていきます。棚や端末の位置の変更は、休診日や診療時間外に区画を分けて工事することもできます。
Q. 電子カルテの端末位置は設計のどの段階で決めますか?
A. 着工前に決めるのが目安です。IT業者や医療機器メーカーと現場で位置を確かめ、LANの口や配線の出口の高さを図面に落とします。予備の口と空配管を用意しておくと、あとからの変更にも対応しやすくなります。
まとめ
複数院でスタッフを共有しやすくするには、部屋の並び順、物の置き場所と収納の高さ、器具の流れの向き、サインと色分け、LAN・端末の位置をそろえることが大切です。物件の形は違っても、順番と高さのルールは共通にでき、どの院に行っても迷わない環境につながります。北九州市・下関市・福岡市で分院の開業や改装をお考えの先生は、お気軽にご相談ください。
クリニック アーキテクト プロでは、企画設計・プランニング・概算見積(たたき2案)までを無料で承っています。物件の条件を伺えば、翌日に概算の幅をお示しします。これまでの事例は施工事例一覧、計画のご相談は無料相談からどうぞ。