この記事の結論:承継に伴うリノベーションは、引き継ぐ前に建物の書類と設備の状態を確かめることから始まります。そのうえで、先代の運用と新院長の診療方針の違いを洗い出し、間取りのどこを変えるかを決めます。一度に全面改修せず、優先順位をつけて段階的に進める方法もあります。
執筆・監修:櫨本 健一(ハゼモト建設 代表取締役/一級建築士)
承継リノベーションで最初にすること
最初にすることは、引き継ぐ建物が「どんな状態か」を書類と現地で確かめることです。
親子承継でも第三者承継でも、建物は長年使われてきたものです。見た目がきれいでも、配管や電気設備が古くなっていたり、図面と実際の建物が違っていたりすることがあります。改修の費用や工期は、こうした状態によって大きく変わります。承継の条件を決める前に建物を確かめておくと、引き継いだあとの「想定外」を減らせます。
なお、医療法上の手続きや開設者の変更、税務・相続・譲渡価格の考え方は、建物とは別に、行政窓口や税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。この記事では、建物と間取りの話に絞ります。
承継前に建物で確かめること
確かめる項目は大きく5つです。表にまとめると次のようになります。
| 確かめること | なぜ必要か | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 竣工図書・確認申請書 | 建物の構造や当時の法規への適合を知る手がかりになる | 先代や建物の所有者に保管の有無をたずねる。ない場合は現地調査で補う |
| 過去の無届増築 | 確認申請をせずに増築した部分があると、改修や用途変更の手続きに影響する場合がある | 図面と現地を照らし合わせ、増えた部屋や屋根を確かめる |
| 既存不適格 | 建てた当時は適法でも、今の基準に合わない部分は改修時にあわせて直すことがある | 建築士が現地と書類で確かめ、所轄の役所・消防署と相談する |
| 設備の年数 | 空調・給排水・電気設備が古いと、改修とあわせて更新が必要になる | 機器の銘板(製造年などが書かれた札)や点検記録を確かめる |
| 電気容量 | 新しい医療機器や空調を増やすと容量が足りなくなることがある | 契約容量と分電盤を確かめ、導入予定の機器と照らし合わせる |
竣工図書や確認申請書が見つからないときは
書類がない場合でも、現地調査で柱や梁の位置、配管の経路、天井裏の状態を確かめることで、改修の計画を立てられます。ただし、どこまで変えられるかの判断に時間がかかることがあるため、早めに調査を始めるのがおすすめです。
消防の基準にも注意
診療所は消防法で特定防火対象物に分類され、改修や用途変更で建物全体に今の基準が求められることがあります。延べ300㎡以上で自動火災報知設備が必要になる場合もあるため、計画段階から消防と相談します。
先代の運用と新院長の診療方針の違いを間取りに反映する
間取りを考えるときは、「先代がどう使っていたか」と「新院長がどう使いたいか」を並べて、違うところだけを変えるのが基本です。
たとえば、次のような違いが出やすい点です。
- 診療の内容:自由診療を増やす、予防や訪問に力を入れるなど、必要な部屋や設備が変わる
- 予約の方法:予約制を強めると、待合の広さや受付の動き方が変わる
- スタッフの人数:休憩室や更衣室、収納の広さが変わる
- IT:電子カルテやオンライン資格確認、予約システムで、LANの口や配線の通り道が必要になる
- 動線:患者さんとスタッフの通り道を分けたい、感染対策で入口を分けたいなど
すべてを新しくしたくなるものですが、先代の患者さんが慣れた配置を残すことにも意味があります。変えるところと残すところを、院長・スタッフと一緒に整理しましょう。設備の位置は、着工前に電気・水道業者、IT業者、医療機器メーカーが現場に集まる「設備の情報共有会」で確かめます。
段階的な改修という選択肢
承継直後に全面改修をせず、優先順位をつけて数回に分けて改修する方法もあります。
たとえば、1回目は受付・待合・トイレなど患者さんの目に触れる部分と、古くなった設備の更新。2回目は診療室の増設や医療機器の入れ替えに合わせた工事、といった分け方です。段階的に進めると、一度の休診期間や資金の負担を小さくでき、診療を続けながら新院長のやり方に合わせていけます。将来の工事に備えて、点検口や空配管(あとから配線を通すための管)を先に用意しておくと、次の改修が楽になります。
診療を続けながらの改修は、区画を分けて順に工事し、音の出る作業は休診日・診療後に行い、仮の壁で粉塵と臭いを止めて進めます。詳しくは「増築・改修の前に確かめたい7つのこと」もご覧ください。
事例:居抜きの改修と、診療科が変わる全面改修
かわかみデンタルクリニック(八幡西区):築25年の居抜き
かわかみデンタルクリニックは、築25年の物件を居抜きで開業した医院の改修です。床・壁・天井の張り替え、受付カウンターとカルテ棚の新設、出入口を開き戸から自動ドアへ、スタッフトイレを和式から洋式へ、棚の造作などを行いました。工事はお盆休みの10日間で完了し、スタッフの方から「使い勝手が良くなった」との声をいただきました。既存の建物を生かしながら、使い方に合わせて手を入れた例です。
CieR Clinic Kurosaki(八幡西区黒崎):診療科が変わる全面改修
CieR Clinic Kurosakiは、元産婦人科の建物を内科クリニックとして全面改修した事例です。診療科が変わると必要な設備や動線が違うため、一部の間取りを見直しました。床・壁・天井を刷新し、グレー基調に木目と間接照明を組み合わせています。診察室・処置室は医療機器を設置しやすいレイアウトにし、看板・サインも一新しました。
よくある質問
Q. 承継前に建物の調査だけ相談できますか?
A. できます。竣工図書や確認申請書の有無、設備の年数、電気容量などを確かめ、改修が必要な範囲と概算の幅をお伝えします。企画設計・プランニング・概算見積(たたき2案)までは無料です。
Q. 承継の手続きや税金のことも相談できますか?
A. 医療法上の手続きや税務・相続については、行政窓口や税理士などの専門家にご相談ください。建物については、融資の打ち合わせに根拠説明のため同席することもできます。
Q. 診療科が変わる場合、どこまで改修が必要ですか?
A. 必要な設備や動線によって変わります。内科なら感染対策の空調・換気やゾーニング、歯科ならユニットの配管やバキュームなど、診療科ごとに確かめる点が違うため、現地調査のうえでご提案します。
まとめ
承継に伴うリノベーションは、竣工図書・確認申請書、無届増築、既存不適格、設備の年数、電気容量を承継前に確かめ、先代の運用と新院長の診療方針の違いを間取りに反映することが成功のポイントです。段階的な改修も選択肢になります。北九州市・下関市・福岡市で医院の承継を考えている先生は、条件を決める前の段階からご相談ください。
クリニック アーキテクト プロでは、企画設計・プランニング・概算見積(たたき2案)までを無料で承っています。承継物件の建物調査や改修のご相談は、無料相談からお気軽にお問い合わせください。