この記事の結論:設計と施工を一社にまとめる「設計施工一括発注」は、窓口が一つになり、設計中から工事の段取りを並行して進められるため、工期を短くしやすい方法です。一方で他社と金額を比べにくい面があるため、内訳の分かる見積りを求めて補うことが大切です。工期を左右するいちばんの要因は、着工前に仕様を決めきれるかどうかです。

執筆・監修:櫨本 健一(ハゼモト建設 代表取締役/一級建築士)

設計施工一括発注とは?分離発注との違い

設計施工一括発注とは、設計事務所と工事会社を別々に選ぶのではなく、設計から施工までを一社に任せる発注の方法です。

分離発注では、まず設計事務所が図面をつくり、その図面で複数の工事会社から見積りを取り、工事会社を決めてから着工します。設計と工事の担当がはっきり分かれる一方で、図面ができあがるまで工事会社が決まらないため、工事の段取りは図面完成後に始まります。

一括発注では、設計の段階から工事を担当する会社が入っているため、「この納まりなら工場で先に加工できる」「この材料は納期がかかるので早めに手配する」といった工事側の判断を、設計中に反映できます。開院日や改装の再開日が先に決まっている医院にとって、この並行作業が工期短縮の大きな理由になります。

分離発注と一括発注の比較表

どちらが優れているというより、医院の状況によって向き不向きがあります。理事長・事務長の立場で気になる5つの点を比べると、次のようになります。

比べる点設計施工分離発注設計施工一括発注
窓口設計事務所と工事会社の2つ。連絡や確認がそれぞれに必要一つ。質問や変更の相談先が明確
工期設計完了→見積り→業者決定→着工と順番に進むため長くなりやすい設計中に資材手配や工程づくりを並行でき、短くしやすい
費用の調整相見積りで比べやすい。図面確定後の減額調整は設計の手直しが必要設計段階からコストを見ながら調整できる。他社と比べにくい面がある
責任の所在不具合が設計か施工か分かれにくい場合がある一社が設計・施工の両方に責任を持つ
デザインの深さ設計者の個性を出しやすく、工事会社を監理(図面通りか確かめること)する立場もとれる施工しやすさとのバランスをとる。会社によってデザイン力に差がある

工期と窓口の分かりやすさを重視するなら一括、作品性の高いデザインや第三者による監理を重視するなら分離、というのが一つの目安です。

一括発注で工期が短くなる3つの理由

工期が短くなるのは、作業を急ぐからではなく、待ち時間と手戻り(やり直し)が減るからです。

1. 意思決定が早い

窓口が一つなので、先生や事務長が決めたことがそのまま現場に伝わり、確認待ちの日数が減ります。クリニック アーキテクト プロでは、設計から施工まで一社で一貫しており、大工・基礎・建て方は自社の職人が担当します。図面と仕上がりの相違が少ないのも一括の利点です。

2. 申請や手配を並行して進められる

審査機関や消防には、計画段階から並行して相談します。設備業者や医療機器メーカーとの調整も、設計中から始められます。着工前には、電気・水道業者、電子カルテ・レセコンのIT業者、医療機器メーカーが現場に集まって位置を確かめる「設備の情報共有会」を開き、先生・医療機器メーカー・建築会社の「三者連携」で配管やLANの位置を決めます。

3. 工場加工を先に進められる

造作家具や受付カウンターは、寸法が決まった時点で工場での製作に入れ、現場の日数を短くできます。

工期の目安はどれくらい?

テナント内装は着工から約10週間、木造平屋の新築は開院まで約6か月が一つの目安です。いずれも規模や内容、申請の状況によって変わります。

  • テナント内装:着工から約10週間(2か月半〜3か月)。費用の目安は坪100万円前後(税別・医療機器を除く)。
  • 木造平屋の新築:申請準備1〜2か月、着工から3か月、開院まで約6か月。費用の目安は坪110〜120万円程度(税別・医療機器を除く)。

費用の決まり方は「建築費・内装費の決まり方」、全体の流れは「クリニックができるまで」で詳しく紹介しています。

事例:アトールクリニック(小倉北区)53坪を2週間で全面改装

条件がそろえば、テナントの全面改装でも短い工期で仕上げられます。

鹿児島・熊本で美容クリニックを運営する法人の北九州小倉院として新規開院されたアトールクリニックでは、ビルのテナント約175㎡(53坪)の全面改装を2週間の工期で完了しました。施主の方が鹿児島にいらしたため、公式LINEで写真や確認事項をやり取りし、遠方でも判断が止まらないようにしました。高級感とプライバシーに配慮した空間です。

条件は医院ごとに異なるため、すべての医院で同じ工期になるわけではありません。

一括発注の注意点:比べにくさは「内訳の分かる見積り」で補う

一括発注の弱点は、同じ図面で複数社の金額を比べる分離発注に比べ、金額の妥当性が見えにくいことです。

これを補うには、見積書の「一式」表記を減らしてもらうことが有効です。電気(メーカー・型番・数量・単価)、空調(仕様・配管ルート)、給排水(材質・経路)、内装(グレード・面積)、建具の内訳をたずねると、他社の見積りや相場と比べやすくなります。坪単価に含まれないことが多い外構、看板、照明器具、カーテン・ブラインド、造作家具、電話・LAN配線、防犯カメラ、医療廃棄物の保管庫、設計料・申請手数料、地盤改良が入っているかも確かめましょう。予備費は総額の5%ほどを目安に見込んでおくと安心です。

融資審査で詳しい見積書や請負契約書を求められることもあるため、内訳の分かる見積りは金融機関への説明にも役立ちます。

工期を守るコツ:着工前に仕様を決めきる

工期を延ばすいちばんの原因は、着工後の仕様変更です。

医療機器の機種が変わって配管をやり直すといった変更は、日数も費用もかかります。着工前に、医療機器の機種と設置位置、ユニットや診察台の数、受付カウンターの高さ(目安110cm前後)、LANの口の数と予備の空配管を決めておきましょう。施工中も、壁や天井のボードを張る前にコンセント位置や器具の高さを先生に現場で確かめていただき、手戻りを防ぎます。

理事長・事務長は、決める人と期限を最初に決めておくとスムーズです。進め方の全体像は「クリニック建築の進め方(13のこと)」も参考にしてください。

よくある質問

Q. 設計施工一括発注だと費用は高くなりますか?

A. 一概に高くなるとはいえません。設計段階から工事費を見ながら調整できるため、コストを抑えた提案をしやすい面があります。ただし他社と比べにくいので、内訳の分かる見積りを求めて確かめることをおすすめします。

Q. 一括発注でも工期が延びることはありますか?

A. あります。着工後の仕様変更、医療機器の機種変更、申請の手続きに時間がかかる場合などは延びることがあります。着工前に仕様を決めきり、審査機関や消防と早めに相談することで延びにくくなります。

Q. 遠方の法人でも打ち合わせはできますか?

A. できます。アトールクリニックの事例では、施主の方が鹿児島にいらしたため、公式LINEで連絡を取り合いながら進めました。現場での確認が必要な場面は、事前に日程を決めておくと安心です。

まとめ

設計施工一括発注は、窓口が一つで意思決定が早く、設計と工事の準備を並行できるため、工期を短くしやすい方法です。比べにくさは内訳の分かる見積りで補い、着工前に仕様を決めきることで、工期と費用のぶれを小さくできます。北九州市・下関市・福岡市で開院や改装の時期が決まっている医院ほど、早めの相談が役立ちます。

クリニック アーキテクト プロでは、企画設計・プランニング・概算見積(たたき2案)までを無料で承っています。敷地や物件の条件を伺えば、翌日に概算の幅をお示しします。工期を優先したい開院・改装のご相談は、無料相談からお気軽にお問い合わせください。