ハゼモト建設代表の櫨本健一です。クリニックの開業を決めた先生が、最初に向き合うのが「お金」のことです。銀行の融資額、開業コンサルタントが示す開業資金の相場。そのなかでも、図面が固まる前は見通しにくく、あとから金額が動きやすいのが、建築費(新築・内装改修費)です。

私たちは、北九州市・下関市・福岡市を中心に、歯科医院や整形外科などの新築・増築・改修・テナント内装を手がけてきました。このコラムでは、建築費がどう決まるのか、見積もりで確かめたい点は何かを、順に説明します。

予算を考える院長先生のイラスト

1. 相場の数字を、そのまま当てはめない理由

1.1. 銀行やコンサルタントが示す「相場」の読み方

開業の準備を始めると、「内科の開業資金は〇〇千万円」「歯科医院の内装費は坪単価△△万円」といった相場の数字を目にします。統計的な平均値として参考になりますが、先生の医院の予算は、個別の条件で決まります。

クリニックの建築費は、建物本体の費用だけでなく、医療機器に合わせた設備工事や、土地の状況に応じた地盤改良工事など、一件ごとの条件に左右されます。示された相場に、土地代、医療機器代、付帯工事費がどう含まれているのか(あるいは含まれないのか)を、最初に確かめます。

建築費の見積書のイラスト

内装費は、内科の感染対策のゾーニング、整形外科のリハビリ機器のための床の補強、歯科の配管・バキューム設備など、診療科ごとの要望で変わります。まずは「実現したい医療」を具体的にして、必要な建築費用を建築側と一緒に見積もるところから始めます。

1.2. 建築コストの決定要因:規模・構造・診療科

建築費は、延床面積、構造、診療科の設備、土地やテナントの条件が重なって決まります。診療科の設備(給排水・電気・空調・換気・X線室など)が加わるため、医院の内装・設備は、一般的な事務所の内装とは費用の内訳が変わります。

坪単価で比べるときは、何がどこまで含まれているかを、建築会社にたずねてください。特殊設備の工事費がどこに入っているかも、あわせて確かめます。

当社の目安は、テナント内装で坪100万円前後、木造平屋の新築で坪110〜120万円程度です(税別・医療機器を除く)。診療科や設備、物件の状態によって変わります。

1.3. 北九州・下関・福岡における資材・人件費の動き

建築資材と費用のイラスト

近年は、資材価格や人手の面で、建築費が動きやすい状況が続いています。空調・換気設備など、医療施設に欠かせない設備も例外ではありません。熟練の職人の高齢化など、人手の面も工期と費用に影響します。

見積もりの金額だけでなく、その金額で何が含まれ、どのように施工するのかを確かめることが、納得のいく選択につながります。金額が低い場合は、その理由もたずねてみてください。地域で実績があり、職人の顔が見える会社かどうかも、判断の材料になります。

2. 新築かテナントか:建築の形態で変わる費用

2.1. 新築の土地探し:地盤改良費・造成費

新築の戸建てクリニックは、設計の自由度が高く、理想の空間をつくりやすい一方で、土地の購入費用以外に費用が加わることがあります。大きいのは、土地の状況に応じた費用です。

田畑や山林だった場所を造成した土地では、地盤調査の結果に応じて、地盤改良工事(杭打ち、表層改良など)が必要になることがあります。費用は地盤の状態で大きく変わります。高低差のある土地では、擁壁工事や造成工事が必要になることもあり、付帯工事として費用に加わります。

土地の契約の前に、建築会社に地盤調査と地盤改良の概算費用(要否を含む)を出してもらい、総事業費に組み込んでおくと、あとで費用がぶれにくくなります。

土地代だけでなく、地盤改良費と造成費まで含めて試算すると、全体の計画が立てやすくなります。土地の価格だけで比べず、地盤の状態も見て選ぶことで、工期も安定します。

2.2. テナント改修:解体後に見えてくる費用と、原状回復費用

テナント開業は、建物本体の工事費がない分、初期費用が抑えられるように見えます。ただし、テナント改修では、次の2つの費用があとから見えてくることがあります。

  • 解体後に見えてくる費用:壁や天井を解体してみて分かる、配管の状態や電気容量、床の状態への対応費用。
  • 原状回復費用:退去するときに、借りた当時の状態へ戻す費用。賃貸契約書の条項で範囲が決まります。

契約の前に、次の3つを確かめておくと進めやすくなります。

  • 解体後に見えてくる費用に備えて、予備費を予算に組み込む(総額の5%ほどが目安です)。
  • 賃貸契約書の原状回復の条項を、建築会社と一緒に確認し、必要があれば大家さんと相談する。
  • 既存の電気容量や給排水の経路が、医療機器に対応できるかを事前に調べる。
建物の設備を点検するイラスト

テナント改修では、坪単価の安さだけでなく、解体・撤去の費用、インフラ改修の費用、将来の原状回復の費用まで、建築会社に洗い出してもらいます。とくに電気容量と給排水の経路は、テナント改修の成否に関わる大切な点です。

2.3. 医療モール(メディカルビル)の建築費と制約

医療モールのイラスト

医療モールは、同じ建物に医院が集まるという良さがある一方で、建築・内装の費用や仕様に制約が出ることがあります。

  • 建物全体の共通ルール:空調や給排水の配管ルート、電気の幹線は、ビル全体で管理・設計されていることが多く、希望の設備仕様を自由に選べない場合があります。
  • 設備の容量:たとえば歯科でバキュームを導入したくても、ビルの配管容量が足りなければ、改修工事が必要になります。
  • 工期・作業の制限:エレベーターの使用時間や搬入ルートが決められていると、作業の効率に影響します。
  • 維持管理費と原状回復:共用部分の維持管理費や、退去時の原状回復のルールも確かめます。

医療モールを検討するときは、建物全体の仕様書を建築会社に見せて、「内装・設備の自由度がどれだけ限られるか」「追加で必要な特殊工事は何か」を、概算で出してもらいます。

3. 見積書の読み方:「一式」表記と、会社選びの目安

見積書は、図面の詳しさに応じて、内訳が変わります。この章では、見積書で確かめたい点を順に説明します。

3.1. 概算見積もりと予備費

開業コンサルタントや、初期段階の建築会社が出す見積もりは、多くが「概算見積もり」です。図面がまだ固まっていない段階で、過去の経験から、おおよその金額を見込んだものです。

予算計画のイラスト

図面が具体的になる中で、概算の段階では含まれていなかった費用が見えてくることがあります。建材のグレード、コンセントの位置、照明器具の仕様などが、積み重なるためです。

予備費は、総額の5%ほどを目安に見込みます。ただし案件によって変わります。あわせて、概算からの増額がどこまで許容できるかを、建築会社と事前に書面で共有しておくと、進めやすくなります。

当社では、企画設計・プランニング・概算見積(たたき2案)までを無料で承っています。

3.2. 「一式」表記の読み方

見積書の「内装工事一式」「設備工事一式」といった表記は、中身が見えにくくなります。

  • 比べにくい:A社とB社の「内装工事一式」の金額が違っても、内訳が分からなければ比較できません。
  • 責任の所在が分かりにくい:設備や付帯工事が「別途工事」とされ、別の業者に直接頼むことになると、工期や不具合の窓口が分かれます。

主要な工事については、次のような詳しい内訳をたずねてみてください。

  • 電気工事:メーカー名、型番、数量、単価
  • 空調工事:機器の仕様、配管ルート、施工範囲
  • 給排水工事:配管の材質、経路、接続箇所
  • 内装仕上げ:建材のグレード、施工面積、工法
  • 建具:種類、サイズ、材質、金物

医療機器そのものは、別に契約していただくことが多いため、機器の条件(電源・配管・床の強さ)を、メーカーさんと建築側で早めに合わせます。設備工事は、建築会社が取りまとめると、工期と責任の所在が分かりやすくなります。

3.3. 診療科ごとの特殊工事費と内訳

診療科によって、特別な工事が加わります。概算の段階でこれを見込んでおくと、あとの金額の動きが小さくなります。

診療科特殊工事の例内容
歯科特殊配管・バキューム設備工事ユニットごとに必要な給排水・エアー・電気の配管ルートと、バキューム室の設置。配管スペースのために、床を二重にしたり、天井を下げたりする工事が加わることがあります。
整形外科X線室・リハビリ室の構造補強、遮蔽工事重い機器を支えるための床の補強、X線を遮るための鉛張り工事、広いリハビリ室のための構造設計。リハビリ機器のために電源容量も大きくなります。
内科空調・換気システム感染対策の考え方に応じた空調・換気の設備と、ゾーニングのための建具・壁の区画。ダクト工事があるため、天井裏のスペースが必要です。

これらは、一般の工事より専門の業者に見積もりを頼む場面が多く、見積もりが出そろうまでに時間がかかることがあります。

診療科に特有の特殊工事は、「坪単価」でも「一式」でもなく、項目ごとの数量と単価で出してもらい、総建築費の中で変わりうる部分として切り分けて管理します。建築会社と医療機器メーカーが初期の段階から一緒に、機器の性能を活かしつつ建築費用を抑える配置と仕様を決めることが、費用の面でも役に立ちます。

4. 「坪単価」を抑えるための工夫

建築費を抑えるには、安い建材を選ぶだけでなく、設計の段階から全体を組み立てる視点が要ります。

4.1. 規模と間取り:必要な面積を見極める

建築費は、おおむね延床面積に比例します。そのため、無駄な面積を減らすことが、費用を抑える基本です。

ただし医院は、診療に必要な面積が決まっています。整形外科のリハビリ室や、内科の感染対策のためのゾーニングに必要な空間は、減らせません。機能のない余白を見直し、減らせない空間の使い勝手を高める、という考え方で進めます。

クリニックの平面図のイラスト
  • 廊下、待合室、スタッフルームの余白を見直す
  • スタッフと患者様の動線を整え、無駄な移動を減らす
  • 収納と間仕切りを兼ねる造作家具で、空間を有効に使う

4.2. 素材選び:場所ごとにメリハリをつける

内装の仕上げ材(床・壁・天井)は、医院の印象を左右する一方で、グレードによって価格の差が大きく出ます。安価な建材を選べば費用は下がりますが、医院では、耐久性、清掃のしやすさ、防火性といった機能を保つことが大切です。

  • 費用をかける場所:診察室、処置室、滅菌室など、衛生管理と機能が優先される場所の床材・壁材は、耐久性や清掃のしやすさに優れた素材を選びます。
  • 費用を抑える場所:スタッフルーム、書庫、バックヤードなど、患者様の目に触れにくい場所は、グレードを調整します。
  • 見える場所の工夫:待合室など患者様の目に触れる空間は、アクセントウォールなど、費用を抑えても印象のよい仕上げを取り入れます。

建材は、価格だけでなく、機能と耐久性を軸に選びます。清掃のしやすさは、日々の手間にも関わるため、初期費用と、あとの維持の手間を合わせて考えます。

4.3. 工期と費用の関係:仕様は着工前に決めきる

工事が始まってから仕様を変更すると、すでに発注した資材の扱い、手戻りの作業、工期の延びにともなう現場管理費の増加などが、費用として加わることがあります。

電気や給排水は、工事がある程度進むと変更が難しくなります。だから着工前に仕様を決めきります。歯科ユニットの配置や、X線室の電源のように、建物の下地に関わる設備は、とくに早い段階で決めておきます。

当社の目安では、テナント内装は着工から約10週間です。木造平屋の新築は、着工から3か月、その前に申請の準備が1〜2か月あり、開院まで約6か月です。案件によって変わります。開院の日から逆算して、仕様を決める時期を工程に入れておくと、進めやすくなります。

5. 融資と契約の進め方

建築費の計画と、融資のタイミングは、開業の進み方に関わる大切な要素です。この章では、資金の調達と建築契約の進め方を説明します。

5.1. 建築契約と融資契約のタイミング

融資の審査では、建築会社が作成した詳しい見積書や、建築工事の請負契約書の提出を求められることがあります。金融機関によって流れは異なります。

資金計画の相談のイラスト

建築契約のあとに、地盤改良費の追加や資材価格の動きで金額が増えた場合、金融機関に資金の使いみちの変更を相談することになります。時間のかかる手続きになることがあるため、建築契約のタイミングと金額は、金融機関と建築会社の両方に、早めに確かめておきます。

見積もりの内訳が分かりやすいほど、金融機関への説明もしやすくなります。予備費も含めた資金計画を、早い段階から一緒に組み立てます。

5.2. 設計と施工が別の場合と、一社の場合

設計事務所に設計を依頼し、施工を別の会社が行う方式には、デザインを深く検討できるという良さがあります。一方で、設計と施工が別の会社の場合は、窓口が分かれます。費用や工期について調整が必要になったとき、設計側と施工側の間で、確認に時間がかかることがあります。

当社は、設計から施工までを一社で担当します。費用と施工のしやすさを同時に見ながら提案できるため、デザインとコストと工期の調整を、ひとつの窓口で進められます。

5.3. 櫨本が大切にしていること:説明と信頼関係

ここまで、クリニック建築の費用が決まる要因と、見積もりの読み方を説明してきました。私は建築士として、「なぜこの費用が必要なのか」を、先生にご理解いただけるように説明することを大切にしています。

クリニック建築は、決して小さな金額ではありません。だからこそ、大切な資金を無理なく使っていただけるよう、内訳が分かる見積もりと、率直に話し合える関係を土台にしたいと考えています。建築会社を選ぶ基準は、金額だけでなく、見積もりの分かりやすさと、人柄にもあると思います。

まとめ

建築費は、相場の数字だけでは決まらず、診療科、土地やテナントの条件、仕様の決め方で変わります。見積もりでは、内訳、予備費、診療科の特殊工事、融資との順番を確かめます。

当社の目安は、テナント内装で坪100万円前後、木造平屋の新築で坪110〜120万円程度です(税別・医療機器を除く)。予備費は総額の5%ほどを見込みます。企画設計・プランニング・概算見積(たたき2案)までは無料で承っています。

医院づくり全体の流れはクリニック建築の進め方に、よくあるご質問はよくある質問のページにまとめています。費用のことでお聞きになりたい点があれば、無料相談のページからお受けしています。