この記事の結論:皮膚科・美容クリニックのプライバシーは、施術室を「壁で囲う」だけでは守れません。音・視線・照明・換気を部屋ごとに整え、受付から施術室、パウダールーム、お会計までの動線で他の患者さんと会いにくくすることが大切です。テナントでは、個室を並べたときの換気・排煙やビル側の工事区分を、間取りを決める前に確かめます。

執筆・監修:櫨本 健一(ハゼモト建設 代表取締役/一級建築士)

皮膚科・美容クリニックでプライバシー設計が大切な理由

理由は、施術の内容そのものが人に知られたくない情報だからです。顔や肌の悩み、施術後の赤みやメイクを落とした顔は、待合や廊下で他の方に見られたくないものです。カーテン一枚の仕切りでは、話し声も気配も伝わります。

そのため、内装では「どの部屋で何が見えて、何が聞こえるか」を一部屋ずつ確かめます。クリニック建築全体の進め方はクリニック建築の進め方(13のこと)もあわせてご覧ください。

施術室を「完全個室」にするための5つのポイント

完全個室化のポイントは、遮音・視線・照明・コンセント・換気の5つを部屋ごとに決めることです。

1. 遮音:壁を天井裏まで立ち上げる

声を漏らさないためには、間仕切り壁を天井の高さで止めず、天井裏(天井板の上の空間)まで立ち上げるのが基本です。壁の中に吸音材を入れ、扉はすき間の少ない建具を選びます。天井裏がつながったままだと、音は上から隣の部屋へ回り込みます。天井裏の空調やダクトのルートとは合わせて調整します。

2. 視線:扉の向きと開いたときの見え方

扉は、開いたときに廊下から施術ベッドが直接見えない向きに付けます。ベッドを扉の正面からずらす、入口の内側に目隠しの壁を設けるといった工夫が有効です。

3. 照明:施術用と、くつろぐための明かりを分ける

施術室には、肌の状態を正しく見るための手元の明るさと、横になったときにまぶしくない明かりの両方が必要です。天井の照明を真上に置くと仰向けの患者さんの目に入るため、間接照明(光を壁や天井に当てて柔らかく広げる照明)や調光できる器具を組み合わせます。

4. コンセント:機器の数と位置を先に決める

レーザーや美容機器は、部屋ごとに使う機器が違い、電源の容量や差し込み口の形が異なる場合があります。ベッドのどちら側に機器を置くかを決めてから、コンセントの位置・数・専用回路を図面に落とします。当社では壁や天井のボードを張る前に、コンセントの位置や器具の高さを先生に現場で確かめていただきます。

5. 換気:個室ごとに空気の入口と出口をつくる

個室を密閉すると、空気がこもりやすくなります。施術によってはにおいや煙が出ることもあるため、部屋ごとに給気と排気の経路を考えます。扉の下にすき間を設ける、ガラリ(空気を通す羽根付きの開口)を付けるといった方法は、遮音とぶつかるため、どちらを優先するかを部屋ごとに決めます。

仕切り方音の伝わりにくさ視線の遮り費用・工期の目安向いている部屋
カーテンほぼ伝わるすき間から見える小さい着替えの補助、短時間の処置
天井までの間仕切り壁天井裏から回り込む遮れる中くらい一般的な診察室
天井裏まで立ち上げた壁+吸音材伝わりにくい遮れる大きい(設備との調整が必要)カウンセリング室、施術室

※費用・工期は物件の天井裏の状態や設備ルートによって変わります。

待合での視線をどう切るか

待合では、患者さん同士が正面で向き合わない席の並べ方にすることが第一です。ソファを同じ向きに並べる、家具や植栽で区切る、一人掛けの席を増やすといった方法があります。

また、入口から待合が丸見えにならないよう、入口と待合の間に受付を挟む配置もよく使います。カーテン・ブラインドや造作家具は坪単価に含まれないことが多いため、見積もりの段階で範囲を確かめておくと安心です。

受付から施術室まで、他の患者さんと会いにくい動線

他の患者さんと会いにくくするには、施術を終えた方が待合に戻らずにお会計や出口へ向かえる流れをつくることです。

たとえば、施術室・パウダールーム・お会計を一つの方向に並べ、入ってくる方と帰る方が同じ廊下ですれ違わないようにします。一方通行が取れない広さなら、廊下の曲がり角や扉の位置で視線を外します。スタッフが器具やタオルを運ぶ裏の通路を分けられると、患者さんの通る廊下はさらに静かになります。

パウダールームの配置と照明

パウダールームは、施術室を出てすぐ、待合を通らずに入れる位置に置くのが基本です。施術後にメイクを直してから人前に出られます。

照明は、顔に影ができにくいよう、鏡の両側や上から均一に光が当たる器具を選びます。色の見え方が自然な光にすると、メイクの仕上がりを確かめやすくなります。鏡の前にはドライヤーやヘアアイロン用のコンセント、荷物を置ける棚、手洗いの水栓が必要です。手洗いを付けると給排水の配管が加わるため、テナントでは排水の位置と床の高さを先に確かめます。

テナントで個室を並べるときの注意

注意点は、個室を並べると窓のない部屋が増え、換気・排煙の条件が変わることです。採光・換気・排煙(LVS)の扱いは部屋の使い方で変わり、排煙は告示に沿った緩和ができる場合があります。計画段階から審査機関・消防署と並行して相談します。

また、個室を増やすと感知器や吹出口の追加が必要になる場合があり、これらはB工事(先生の負担で、オーナー指定の業者が行う工事)になることが多い部分です。B工事は金額を比べにくいため、内訳を早めにたずねます。工事区分の考え方は内装費用の目安と進め方で詳しく説明しています。

事例:アトールクリニックと小倉あんざい歯科

アトールクリニック(小倉北区)は、鹿児島・熊本で美容クリニックを運営する法人の北九州小倉院です。ビルのテナント約175㎡(53坪)の全面改装を2週間の工期で完了しました。高級感とプライバシーに配慮した空間とし、施主が鹿児島にいたため公式LINEで連絡を取り合いながら進めました。

小倉あんざい歯科・歯周病クリニック(小倉北区)は、約118㎡のテナント内装で、個室の診療室とパウダールームを設けました。受付は天井の間接照明とカウンター足元の明かりで落ち着いた雰囲気にし、診療室は部屋ごとに壁の色を変えています。

よくある質問

Q. カーテンの仕切りを壁に変えるだけで完全個室になりますか?

A. 壁に変えるだけでは十分でない場合があります。天井裏から音が回り込むため、壁を天井裏まで立ち上げ、扉のすき間や換気の経路もあわせて整えることで、声の漏れにくい個室になります。

Q. パウダールームはどこに置くのがよいですか?

A. 施術室を出てすぐ、待合を通らずに入れる位置が基本です。顔に影ができにくい照明、ドライヤー用のコンセント、手洗いをそろえ、手洗いの排水位置はテナントの条件と合わせて確かめます。

Q. 個室を増やすと工事費は上がりますか?

A. 壁・扉・照明・換気・感知器などが部屋ごとに必要になるため、上がることが多いです。テナント内装は坪100万円前後(税別・医療機器を除く)が目安ですが、個室の数や仕様、B工事の範囲によって変わります。

まとめ

皮膚科・美容クリニックの完全個室化は、遮音・視線・照明・コンセント・換気を部屋ごとに決め、受付から施術室、パウダールーム、お会計までの動線で他の患者さんと会いにくくすることが要です。テナントでは換気・排煙やB工事の範囲を早めに確かめると、工期と費用の見通しが立てやすくなります。北九州市・下関市・福岡市で美容・皮膚科の開業や改装をお考えの先生は、物件が決まる前の段階からご相談ください。

クリニック アーキテクト プロでは、企画設計・プランニング・概算見積(たたき2案)までを無料で承っています。物件の条件を伺えば、翌日に概算の幅をお示しします。テナント探しからのご相談は物件リクエスト、計画のご相談は無料相談からお気軽にどうぞ。