この記事の結論:元コンビニのように床がコンクリートの土間になっている店舗跡を歯科医院にするとき、私たちは土間をはつらず(削り取らず)、その上に床を250〜300mm組み上げます。床の高さは、歯科ユニットの排水に必要な勾配(水が流れるための傾き)から決めます。床が上がる分、入口にはスロープを付けて段差をなくし、天井の高さは、床を上げたあとに残る寸法で確かめます。
執筆・監修:櫨本 健一(ハゼモト建設 代表取締役/一級建築士)
こんにちは。ハゼモト建設の代表を務めております、櫨本健一です。北九州市を拠点に、下関市から福岡市近郊まで、歯科をはじめとする医院の新築・改修をお手伝いしています。
コンビニや物販店の跡は、駐車場があり、道路に面していて、医院の候補として物件情報によく出てきます。この記事では、そうした土間の物件を医院にするときの床の考え方を、高さの決め方、入口と天井に出る影響、現地で最初に確かめる場所の順に書きます。全体の流れは、柱の記事「クリニック建築の進め方」の第2章にもまとめています。
土間のままでは、歯科ユニットの配管を通せません
コンビニなど物販の店舗は、人の出入りや台車の通行に耐えるよう、床が土間コンクリートでできています。表面は平らで丈夫ですが、コンクリートの中に、あとから配管を通す余地はありません。
歯科ユニットは、診療台ごとに給水・排水・吸引・エアの配管が要る設備です。これらを床の下で取り回して、診療台の足元に出す計画が多くなります。床の下に空間がなければ、配管の逃がし先がありません。
考え方は2つあります。ひとつは、土間をはつって(壊して削って)溝や段を掘り、そこへ配管を埋める方法。もうひとつは、土間の上に床を組み上げて、床下に配管の通り道をつくる方法です。私たちは後者を選び、土間をはつりません。土間を壊さない分、工期と騒音を抑えられます。
床の高さは、排水の勾配から決めます
勾配とは:水が自然に流れるための傾き
排水の管は、水が自然に流れるよう、流れる向きに沿ってわずかに下がり続ける必要があります。この傾きが勾配です。傾きが足りないと、水の流れが弱くなり、詰まりやすくなります。
下がる量は、距離に応じて積み重なります。排水を受ける管から水まわりまでが遠いほど、床下に必要な高さは増えます。床の高さは、デザインや好みではなく、この距離と勾配から逆算して決めます。
水まわりまでの距離で、床上げの高さが変わります
初回のご提案で、私たちは次の目安を使っています。トイレ・消毒室・技工室・流しなどの水まわりが、既存の排水やトイレから6m以内にあれば、床上げは250〜300mm。それを超えるときは、350〜400mmを見込みます。診療台の排水は、床下の主管にまとめる前提なので、この距離には数えません。
| 水まわりから既存の排水・トイレまで | 床上げの高さの目安 | 入口の段 |
|---|---|---|
| 6m以内 | 250〜300mm | 1段 |
| 6mを超える | 350〜400mm | 2段(階段) |
この数字は、現地を見る前の目安です。配管の実際のルートは、現地で確かめてから決めます。水まわりの配置を排水に近づけると、必要な床の高さを小さくできることもあります。
床の組み立てと、重い機器の置き場所
床は、プラスチック製の束(つか:床を支える短い脚)で持ち上げ、その上に構造用合板(28mm)、捨て張りの合板(5.5mm)、フロアタイル(2.7mm)の順に重ねる仕様を基本にしています。床下に残る空間が、そのまま配管の通り道になります。
CTなどの重い機器を置く場所は、床を上げる場合も新築の場合も、機器の位置を先に決めてから、床の強さを考えます。浜田クリニックでは、CTの位置に合わせて、梁の配置から床を補強しました。機器の重さと置き場所は、メーカーと設計の段階で確かめておく項目です。
床を上げると変わること①:入口がスロープになります
床が250〜300mm上がると、入口に段差が生まれます。車いすやベビーカーをお使いの方、足腰の弱い方が通いやすいよう、入口には屋外のスロープを付けます。
スロープは、1/12の勾配(12の長さで1上がる傾き)を基本にします。計算すると、床の高さに対するスロープの長さは次のとおりです。
| 床上げの高さ | スロープの長さ(1/12の場合) |
|---|---|
| 250mm | 3.0m |
| 300mm | 3.6m |
| 350mm | 4.2m |
| 400mm | 4.8m |
床が高いほど、スロープは長くなります。敷地の中に収まるか、駐車場の台数を減らさずに済むかを、床の高さと一緒に検討します。
床を上げると変わること②:天井が低くなります
床を上げた分だけ、天井は低くなります。床上げ後の天井高は、今の天井高から床上げの寸法(250mmや350mmなど)を引いて見ます。例えば、今の天井高が2.7mで床を250mm上げると約2.45m、350mm上げると約2.35mです。
引いたあとの高さが低すぎるときは、天井を一度解体して組み直し、高さを確保できるかを確かめます。天井裏の設備や梁の位置を見る必要があるため、図面だけでは決められず、現地で確かめます。
現地で最初に確かめること:床下
物件を見に行って最初に確かめるのは、床下です。今年の夏、床下に約200mmの空間があるビルのテナントの歯科医院で現地調査をしたとき、床の点検口を一か所ずつ開けて、既存の排水管があるか、太さはどうかを見ていきました。図面と現状が違う箇所もあり、現地で実際に測り直しました。
このとき、既存の排水管は歯科ユニットの排水には細いことが分かり、太い塩ビ管への切り替えを検討しました。床下には、床を支える束がなく、大引き(床を受ける横材)が直接取り付いている作りで、配管を回せる余地も限られていました。排水が取れるかどうかは、床下を開けないと分かりません。だから、床を開ける前に、点検口から目で確かめます。
現地では、次の点を順に見ていきます。
- 床下の高さ(コンクリートの床から、仕上げの床まで)
- 既存の排水管の位置と太さ(点検口を開けて、目で見る)
- 水まわりの予定位置から、既存の排水・トイレまでの距離
- 今の天井高と、天井裏の設備・梁の位置
- 入口の前に、スロープを置ける広さ
工期と費用の目安
ビルのテナントを歯科医院に内装する場合の目安は、坪100万円前後(税別)、工期は約10週間です。これはあくまで目安で、物件の状態、診療科目、入れる機器によって変わります。床上げの費用は、水まわりの位置と床の高さで変わるため、現地を見てから見積書でお出しします。
費用の決まり方はクリニックの建築費・内装費の決まり方、内装全体の進め方はクリニックの内装費用の目安と、内装デザイン・工事の進め方に詳しく書いています。
まとめ
土間の店舗跡を医院にするときは、土間をはつらずに床を250〜300mm上げ、その下に配管の通り道をつくります。高さは排水の勾配から決まり、上げた分は、入口のスロープと天井の高さに現れます。物件を契約する前に床下と天井を見ておくと、床の高さと、スロープを置く場所の見通しが立ちます。
よくある質問
Q. 土間をはつったほうが、床は低く抑えられませんか。
A. 土間を削って配管を埋める方法もありますが、音が出て、工期も延びます。私たちは、土間を壊さずに上へ組み上げる方法を基本にしています。床の高さを抑えたいときは、水まわりの配置を排水に近づけることで、必要な高さを小さくできる場合があります。現地で配管のルートを見ながら、どちらが合うかをご説明します。
Q. 床を上げると、天井はどのくらい低くなりますか。
A. 今の天井高から、床上げの寸法(250mmや350mmなど)を引いた高さになります。それでは低すぎる場合は、天井を一度解体して組み直し、高さを確保できるかを現地で確かめます。
Q. 店舗から医院への用途変更で、確認申請は必要ですか。
A. 入院用のベッドがない診療所は、建築基準法で用途変更の確認申請が必要な用途(別表第一)に含まれないため、店舗などからの用途変更では確認申請が不要になる場合があります。ただし、建築基準法・消防法・保健所の基準に合わせる必要はあります。また、入院用ベッドのない診療所は、消防法では「特定防火対象物」に分類されます。必要な設備は面積や階数、建物の形によって変わるため、計画の早い段階で所轄の消防署と確認しながら進めます。
店舗跡や居抜きの物件を、契約の前に一緒に見てほしいという段階でも構いません。ご予約・ご相談のページからお知らせください。ビルのテナントを医院に仕立てた事例は小倉あんざい歯科・歯周病クリニック、築25年の居抜き物件を改装した事例はかわかみデンタルクリニックでご覧いただけます。